今日は何処へも行かず、のんびり僕の部屋で。 昨日の事が決まった時、機嫌直しの意味も込めて何処かに出かけようと思ったけど、悠理は首を横に振った。 ―――「どうせその仕事って疲れんだろ。しょうがないからあたいがお前んトコ行ってやるよ」
だなんて、ホント素直じゃない。 顔はまぁ、真っ赤でしたけどね。
「――なんだよ」 「ん?」 「じっと人の顔見て。なんだよお。映画観ろよー」 「悠理見てるほうが面白いですから」 僕の悪いクセですよねぇ。 ついこんな事を言ってしまう。 でも実際楽しいんですよね、映画なんかよりもずっと。 映画見てなくてもストーリーがわかるぐらい、表情が変わりますからねぇ。 その表情と聞こえてくるセリフだけで、充分ですよ。 「映画観ないんならあっち向いてろよ」 それにこんな風にすぐに反応が返ってくるし。 「嫌ですよ。どうしてそんなあさっての方向向いてなきゃいけないんですか」 「じゃぁ、あたいの顔なんて見んな。このスケベ」 なんて、体ごと顔を背けられてしまった。 「映画観ないんですか?」 「お前があっち向くまで観ない」 お前が観たい映画だったんじゃないのか、全く。 そんなに嫌ですかねぇ、顔見られるの。 ・・・じゃないか。それもあるかも知れないが、さっきの一言が気に触ったのか。 でもまぁ、向こうを向いてくれているのなら丁度都合が良かった。 「わかりました。じゃぁ、暫くそっち向いててくださいね」 「なんでだよ!」 だから向いてろってんだ。 「ハイ、ちょっとの間ですから」 「・・・・・なんか変なことすんじゃないだろうな」 ・・・一体僕をなんだと思ってるんでしょうねえ。 「言う事を聞かないのなら、します」 って、そんな急いで向こう向かなくても。
まぁイイ。 「じっとしててくださいね」
映画を観終わったら渡すつもりだったから、本当に丁度良かった。 箱を開けた時の悠理の表情も見てみたい気もするが、やっぱりこういうモノは面と向かって渡すのはなんだか気恥ずかしいし。 せっかくリボンもかけて貰ったが、まぁ仕方ない。
さて、気に入ってくれますかね。
「―――また、不安にならないように」 なんて、本当は僕が不安なんだ。 こうして抱きしめてもさっきまでのようにずっと手を握っていても、こいつは一瞬体を強張らせる。 緊張してるんだとわかっていても、何処かで思う。 まだ悠理は僕のこと信じていないんじゃないか、と。 だから、指輪を選んだ。 僕が安心できるように。 外していない――僕を愛してくれているとわかるように。
・・・全く、僕はエゴの固まりだ。
「・・・・・・わかんないぞ。指輪があっても、またなるかもしれない」 どう、してだ・・・・。やっぱりまだ・・・。
「だって、お前の趣味ってあたいをいぢめる事だろ?このサド男〜」 なっ。さ、サドって。 ・・・・・あ゛ぁ、そうですかっ。 なら不安にさせない程度に"趣味"を楽しませていただきますよ。 「ほお。言うようになりましたねぇ、悠理も。ついこの間までこうして抱きしめただけで真っ赤になって緊張していたくせに。随分余裕じゃないですか。もうくしゃみは止まりましたよね」
・・・・・ちょっと、やりすぎたか。 せっかくさっきまでもう緊張も解けていたのに。 そんなに固くならなくても・・・。眼も疲れるだろう、そんなに力いっぱい瞑ったら。 「眼を開けてくださいよ・・・悠理」
やっぱりまだ早いんですかねぇ。 へんにこの間未遂に終わってしまったから余計、なのかもしれないな。 ・・・だけど、こんな表情されては、ね。
と思ったら、こいつはまた・・・。
「ホントに面白いな、お前は。よくもまぁ、この短時間にそれだけ表情がコロコロと変えられますね。でもいい加減落ち着いてくれると有難いんですが?僕もそろそろ限界なんで」 「限界ってなんだよ、限界って。大体好きで変えてんじゃないわい」 そりゃそうでしょうね。 でも、そんなトコも好きですよ。 「眼を閉じてくれますか?」 あぁ、本当に限界かもしれない。 不思議なものだな。ただ、皮膚と皮膚が重なるだけの事なのに。 「悠理・・・」
ただ、それだけの事なのに。
「―――うん・・・」
こんなにも、満たされるんだ。
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