程なくして家庭科準備室からの扉が開き、先生が教壇に立った。
「起立!」「礼!」
当番の掛け声に合わせていつも通りお辞儀をした。その時、何となく横目に見えた外の景色が気になった。
ちょうど今朝僕が散歩をして立ち止まった場所だ。 ということは、朝 湯気が出ていたのはこのテーブルの水道なのだ。
プリントがグループごとに配られて、各々が準備に取り掛かる。 なめこは冷蔵庫から野菜を、黒味は鶏肉を早くも取り出してきた。
「あら?味噌君エプロン持って来てたのね――。」 「もちろんさ。いっとくが―――」
その先を言う前に、一人の生徒が声を上げた。
「無い!!!!」
その非難めいた声に全員が冷蔵庫のほうを見る。何が無いというのか? なめこや他の数人かが駆け寄っていく。僕と黒味は傍らで様子を伺っていた。
「何が無いの?」 「うどんがなくなってるの!!」
ざわざわ。皆とっさに自分の取ってきたうどんが間違ってないか確認したり、冷蔵庫を見回したりしている。
「どうしたの皆?何かあった?」 「うどんが無いんです!」
少し遅れて先生が来た。僕と黒味、他数人は未だに遠巻きに見ているだけだ。
「ちゃんと持ってきたなら、そう慌てなくともすぐ見つかるだろう?」 「だよなぁ、こういう状況になるとすぐ騒ぐやつっているんだよな。」
「そう騒がずとも、うどんなんて予備があるに決まってるんだがな。」 「だよなぁ、っておまえそんなんだから忘れるんだろ!!」
黒味のツッコミが冴えるなか、後ろのほうでドアが開く音がした。
―――金山寺だ。彼が登校してきた。
つづく
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