創作捌け口


物凄い確立で多分間違いなくパラレルばっかです。苦手な人は戻るが吉。
2006年11月
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サイレン1(ポプ)
こつんこつんと高いヒールが磨り減った床を同じ感覚で鳴らす。
カーキーのブーツに首までしっかりと止めた軍服。腰元に刺してあるスラリとした刀は『彼』自身を表すかのようだ。

抜刀した瞬間に『彼』は狂気にとりつかれたが如く狂ったように刀を振り回す。
血にまみれたその姿を『彼』の部下、そして彼を知るもの――――例えそれが敵であったとしても、皆畏怖と尊敬と、そしてとりつかれた『彼』を比喩するように呼ぶのだ。



―――――――――鬼、と。






「中路君」

抑揚のない声が室内に反響した。
と言っても彼は本来から大声を出すタイプではなく、どちらかと言えば声が高いので響く。
ぼんやりと正面にいる相手のことを訝しげながら考察していると不意に名前を呼ばれる。一瞬驚いたが、後は心臓も容易く落ち着いていつもと同じ鼓動を感じた。
中路、と呼ばれた少年は黒縁のレンズの分厚い眼鏡を直してから、常に右隣においている刀を掴んでそうしてようやく呼ばれた先を見据えた。

「何か。」

目の前にいる『彼』は机に肘をついて自分をじっと見ていた。
大きすぎる目に裂けた様に広がる赤い口。どれをとっても彼の容姿は恐怖に感じるが、彼の目が澄んでいることも、中路は気付いていた。

「ぼんやりと眺めていたのでね、何か面白いものでもありましたか。」

言われてからようやく自分は本棚に視線を合わせていたのだと気付く。

部屋全体が本棚に囲まれていると言う表現が大げさでなく、ハンパじゃない量の書物が見える。種類も豊富と来たものだ。

外国の書物に法律、戦術に拷問集。
不気味な書物の中に白雪姫、赤頭巾、赤い靴、ヘンゼルとグレーテル。童話の中でもとりわけグロデスクな絵本までもが本棚にしまってある。
らしいのからしくないのか。少々眉を顰めながらじっと眺めていると、彼が近づく足音が床から響いた。

「息抜きでね。」

聞いてもいないのにまるで質問を答えるかのように言う。中路は彼がどのような本を読もうとも興味がない。もってはいけないと思っていた。だから、「はぁ。」と興味なさ気にそういったのだ。

ガラス戸の本棚から童話を全て取り出した。その後何を思ったがズイと自分に渡される。
どうしろと?と視線を投げかけたが、彼の笑みは増すばかりで、道化師のように全く読めない表情のぎょろりとした目がただただ自分を写しているだけだった。
仕方がないので一番上の本の表紙を眺める。
白雪姫、だ。
白い肌に紅の頬、愛らしく笑んでいる少女がつややかな林檎を持つ表紙だ。
見慣れない鮮やかな色使いに、外国のものだろうかと判断する。

「いかがですか?綺麗でしょう。」

「・・・・・・・そうですね。」

「おや、童話に興味はありませんでしたか。」

「・・・残念ながら。」

丁寧に渡しながら答えると、ソレに彼は満足げに笑う。
何を期待しているのだろうか。この男は。

「君には童話のような非現実的な話も世界も似合いませんからね。」

「・・・・そうですか。」

2006年11月11日(土) No.22

サイレン 終
考えを読んだかのように紡がれる言葉は中々に失礼だったが、中路自身も否定すべき箇所はなかったし、『貴方の様なこの世界には非現実的な顔の人間がそんな事言うとは思わなかった。』と思った直後にすぐの見込みこそはしたものの、一瞬でも考えたのであいこだと思った。

「さて、君にはいつものとおり仕事を頼みたい。」

「誰ですか。」

ヒールを鳴らしながら机に向かう彼の言葉に間髪入れずに聞き返す。
長居は無用。馴れ合いも無用。寧ろ勘弁願いたい。
だからこそ一刻も早く依頼内容を聞いて立ち去りたいと思っている。用のないときは呼び出さないで欲しいし出来れば用件ですら人の手を通じて欲しいとも切実に思う。だが全て叶わない。
『彼』になんとなく気に入られていることは自分ですら気付いていた。だからこそ彼は用も無く自分を呼び出し仕事をしている自分の部屋の、居心地のよいソファに腰を下ろさせてお茶を啜らせる。
全く無意味な好意である。

こんな暗殺者に一体何の用だか。

聞いたところではぐらかされるか茶化されるか。
『彼』は冗談も嘘も好んでよく使っていた。そしてその全ては相手を陥れるための言葉だ。頭も切れ、弁が本来から立つ男なのだ。全く煩わしい才能。面倒な。
しかも自分のボロを出すことはない。一生かけてもこの男の些細な弱みすら握れないだろうと思うとひどく腹が立った。
――一度くらいはその道化のような表情から苦しみや怒りなどで顔を歪ませてみたいものだ。と、中路は密かにそう思っていた。

中路は『彼』に関して何も知らない。
ただ毎日高そうな机に柔らかそうな椅子、に座って自分に殺しの依頼をして笑って何か書類を書いて、そしていつもやはり笑っている。

よくは分からんがとりあえず偉い人、と言う認識だけはあった、が、まぁどんなに偉かろうが実はしょぼかろうがどうでも良い。
要は金が欲しいだけなのだ。
だからこそこんな血なまぐさい家業をしている。唯一の自分のとりえはそれだけだったし。
しかし、こんな狂気の権化と廻り合わせられたのはいささか考え物である。
そんな野良犬みたいな自分を拾ってくれた同業者には感謝する。そうでなければ自分は学校に行くことも叶わなかっただろうしましてやギターなんて手に入ることはできなかった。
感謝している。ソレはもう尽きぬほど感謝するが。
こんな自分に暗殺を依頼する彼にも一応感謝の念は存在するが。

要は金が欲しかったわけで彼が苦手なわけでやはり相手の好意は不快なわけで、知りたいと願わないはずなのに気付けば弱点を探し出そうとする浅はかな自分がいる。

結局無駄だし自分も意識をしたくない。しかし意識せねば弱点を探る自分がいる。無限のループである。

だから無意味な好意を好まず接触を好まず。
彼に対して大きく持つのは突き落としてやりたいと願うどろりとした悪意と願い。
知ろうともしない知りたくも無い何も知らない。
知ってはいけないと自分ですら気付かぬうちにサイレンは遠くから響いていたのだ。

だからこそ唯一つ、知っているのは彼の名だけ。

「極卒さん。」

『彼』はゆっくり微笑んだ。
2006年11月11日(土) No.23

カナコ  2006/11/11/01:37:30   No.24
ごくそつくんとナカジでした。

ごくそつくんは自分を嫌って仕方が無いのに忠実であり続けるナカジが滑稽で気に入ってます。
仕事を確実にこなすとこなんかもね。

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