二日酔い度 なし
オレの名はジャック。 誰もそう呼ばないが、オレはオレをジャックと呼ぶ。 オレはたった一人で静かな大人の集まるバーをやっている。 不二家の隣の1階にある透明なバー、と言えば誰もがわかるだろう。 いつも冷静なこのオレが、少しイライラしている。 来週から、ヤツらの店が6周年パーティーというのをやるらしい。 オレは知りたくもなかったが、管理人のオッサンがおしえてくれたのだ。 何かあったらすぐに管理会社か警察に電話をしてくれ、とのことだった。 しかしやたらイベントの多い店だ。 10月末には連中は何か仮装パーティーのようなことをしていた。 オレが最初に見たのは、犬と幼稚園児とトビ職のオッサンだった。 エレベーターから一気に出てきて、手をつないでどこかへ走って行った。 オレは笑った。 可愛いから、とか微笑ましいから、ではない。 以前うちの客に「やっかいなのが引っ越してきたな」と訊かれたときに、オレは「動物園か、幼稚園ですかね」とジョークを言った。 それをヤツらが自ら実演してくれたからだ。 アホとしか言いようがない。 その次にエレベーターから出てきたのは、頭に巨大な角をかぶった、全身白い女だった。店の前で客が待っていたようで、そんな格好で出てくるとは思ってなかったのだろう、その女を見た瞬間客はその場にしゃがみこんだ。 オレはその客に心から同情した。 これからメシを食いに行くに違いなかった。 しかしこの白い女の仮装がいったい何なのか理解できない。 ひとことで言えば、気持ち悪い。 しばらく二人は店の前で揉めていた。客は家に帰らせてくれ、とでも言っているのだろう。やっと客は観念したのか、女に手を引かれて地下の串カツ屋に引きずり込まれて行った。 あの姿で串カツを食べるところを想像すると吐き気がした。異常だ。 串カツ屋の老夫婦が倒れないことを願った。 ヤンキー女にバニーガール・・・いろいろいたが、なぜかこの日、あのタヌキ女だけは一度も見なかった。不思議だ。 タヌキがママなので、こんな日に休んでいるとは思えない。 タヌキと同じ顔の、いまだにオレが男か女か判別できないサルは、しょっちゅう客を見送りに降りて来ていたが。 おそらくあのタヌキは外にも出てこれないくらい醜い姿に変身していたのだろう。何にしてもあの女がいちばんオレの嫌いな人間なのでよかった。 周年なのでまたヤツらはどうせ着物姿でカメラを持ってうろうろするのだろう。誰一人と和装など似合う女はいないのに。 イライラする。
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